健康診断結果の経年変化に視点をおいた望ましい健診結果の活用と事後措置のあり方に関する研究

分担研究報告①

胸部XP有用性評価に関する研究 東海大学 医学部基盤診療学衛生学公衆衛生学 教授 立道 昌幸

背景と目的

定期健康診断での胸部レントゲン検査(CXR)は、1951年に制定された結核予防法(当時の罹患率698/10万人)の流れで、1947年の労働安全衛生法制定とともに、全労働者にCXR検査が義務づけられた。従って当初のCXRは、結核管理が目的であった。その後、結核予防法の変遷があり、平成17年の改正結核予防法(罹患率20.6, 死亡率1.8)により、CXRの対象者が見直され「定期健診での患者発見率が極めて低く、結核予防政策としての有効性が低いほか、すべての事業者に対し負担を課す合理的根拠に乏しいこと」から職域でのCXRの廃止が論議された。厚生労働省での「胸部X線検査あり方検討委員会」での議論の後、平成22年に労働安全衛生法が改正され、全員に実施されてきたCXRは、

•40歳以上は全員対象
•40歳未満では、医師が必要でないと認める場合は省略可(しかし*1~*3の場合は省略不可)

*1 5歳毎の節目年齢(20歳、25歳、30歳、35歳)
*2 感染症法で結核に係る定期の健康診断の対象とされている施設等で働いている
*3 じん肺法で3年に1回のじん肺健康診断の対象とされている

に変更され現在に至っている。
本研究は、この改訂から10年経っていることから、実際のCXRの有用性評価に元になるデータを提供することを目的としている。

現時点での結核罹患率は、平成28年の統計値で13.6である。一方で、従業員の高齢化や、定年が65才まで延長されてきており、肺がんの罹患率は男性においては、50才、55才、60才でそれぞれ、42.6、88.8、176.9と圧倒的に結核罹患率を上回っている。CXRは対策型がん検診として推奨されている検査項目でもあることから、肺がん検診としての有用性評価も必要である。

また、CXRは、その他の疾患として、肺野、縦隔、心臓、大動脈の基本的情報が得られる。従って、本研究ではこれら実際のCXRの発見率を検討した。

方法

1)政府統計値からの評価

職域での結核の発見率や発見動機について、厚労省統計、結核予防会結核研究所、疫学情報センターのデータを参照した。

2)健診機関データからの評価

全国労働衛生団体連合会(全衛連)加盟の施設に対して、2016年度に実施した胸部XP検査の実施数、有所見数、再検査必要判定数、経過観察必要判定数、精査必要判定数、結核疑い判定数を調査し、それぞれの率を算出した。また、精密検査後の確定診断を得ることができた施設においては、結核判定数、肺癌判定数から、発見率を算出した。さらに、肺がんの診断情報まで得られた場合は、その情報を収集した。また、結核、肺がん以外で精密検査等が必要な疾患、所見について抽出した。

3)低線量CT検診

日立健康管理センタでは、1998年より、低線量CT肺がん検診を50才以上の希望者に実施している。この10年間のデータを集計した。受診者数は、初回の約1.5万人、次回以降の延べ4万件の結果を集計した。

結果

・全衛連加盟の121施設中88施設の協力を得た。全数は、約850万件(男性、550万件、300万件)であった。有所見率は約9%、精査必要率は約1%、結核の疑い率は0.006-0.007%であった。

・定期健診からの発見率 (図1)

図1

・肺がんの発見率

図2

・その他の疾患

発見数の多い順では、非結核性抗酸菌症、肺気腫、縦隔収容、サルコードーシスであった。

考察

結核検診として

結核については、結核予防研究所疫学情報センターでの統計値によると罹患率は13.9であり、職域からの発見率は57%であった。これから推定すると、職域での罹患は、7.9となり、これがどの程度定期健康診断で発見できているかによる。当センターの情報からは、職域で発生する結核を20-69才にて定期健康診断からの発見率は7.5-23.9%(17.3%)であり、定期健康診断で発見できているのは1/5に過ぎない。実際定期健康診断の結果から推測した場合を図1に示したが、全ての職域での結核罹患を定期健康診断で把握はできないものの、実測値と期待罹患の中間にあり、結核の感染からの潜伏期、発症までの経過を考えると、一定の役割は果たしていると考えられる。

肺がん検診として

職域でのCXR検査と対策型肺がん検診で実施されるCXR検査では、要件が異なっている。がん検診では、比較読影、2人読影が義務づけられているが、職域でのCXRでの実施については規定がない。また、喫煙者でインデックスが600以上には喀痰細胞診が実施されるが、実際のところは、喀痰細胞診が実施されている機関は少ない。そもそも、がん検診については、罹患率×滞在時間が発見率に影響する。毎年受診した場合と、初回で実施した場合では発見率が異なる。現在の健康診断受診率は90%を超えており、全衛連加盟の受診率は高いため、今回は、初回と非初回を分けずに、すべて非初回として発見率を推定した。その結果、CXR受診者の年齢-性別分布から期待される罹患率に比して、約半分の発見率であった。また、CXRで発見された肺がんのステージIは50%弱であった。一方で、2回目以降の低線量CTで発見された肺がんでは全てステージIであった。これらの結果から、CXRの救命が期待できる早期がん(ステージI)の肺がん発見への効果は、低線量CTに比して半分程度であると推測される。これらの結果から、CXRでの肺がんスクリーニングについて、一定の有用性はあるため、不要との議論にはならないが、CT検診の半分程度と推察できる。これらの結果は、直近の名和らの住民コホートの死亡率減少効果の結果と一致する。

その他の疾患

他の疾患として、上位に上げられるのが、肺気腫、非定型抗酸菌症、縦隔腫瘍、サルコイドーシスであった。これらの疾患についての検診としの有用性については、自覚症状を発見動機とした場合の予後と、罹患率が問題となる。発見率は、最大でも1/10万人以下であることから費用対効果を考慮する必要ある。

報告書

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