健康診断結果の経年変化に視点をおいた望ましい健診結果の活用と事後措置のあり方に関する研究

分担研究報告③

徒歩や自転車、公共交通機関による通勤が体重増加を抑制する
―日本の労働者約3万名を5年間追跡した結果から―
東京大学 環境安全本部 助教 山本 健也
研究協力者:帝京大学大学院 公衆衛生学研究科 講師 桑原 恵介

国立研究開発法人 国立国際医療研究センター(略称:NCGM)は、関東・東海地方に本社を置く企業10数社の従業員約10万人を対象にした職域多施設研究(J-ECOHスタディ)を行っています。今回、本研究参加者において通勤手段が把握できた29,758人を5年間追跡し、徒歩や自転車での通勤、あるいは電車・バスといった公共交通機関を利用した通勤が体重増加の抑制に関連していることを明らかにしました。

背景

生活習慣病の原因として、身体活動低下と肥満は世界的に問題となっています。その解決策のひとつとして、近年、日々の通勤手段が注目を集めています。マイカー通勤を減らし、アクティブな手段(徒歩や自転車)による通勤あるいは公共交通機関(電車・バス)による通勤を増やすことは、身体活動の不足や肥満の解消のほか、環境問題の解決にもつながると期待されています。しかしながら、通勤手段と肥満に関する報告の多くは欧米で実施されたもので、アジアでの縦断研究はほとんどありません。そこで、職域多施設研究(J-ECOHスタディ)の一部集団において、縦断的データを用いて、アクティブな手段による通勤や公共交通機関を利用した通勤と肥満度の変化との関連を分析しました。また、余暇の運動レベルや仕事中の身体活動レベルが違う集団でも同様の結果が得られるかを検証しました。

方法

1.対象

J-ECOHスタディ参加施設のうち、通勤手段の情報が得られたサブコホート(1社)で2006年度から2010年度まで職域定期健康診断を受診した30~64歳の 男女29,758名
*この期間内で健康診断を最初に受けた年度をベースラインとした。

2.縦断解析

ベースラインとその5年後の2時点のデータを分析

3.通勤手段の変化

主な通勤手段を4つの選択肢(徒歩、自転車、電車・バス、自動車・バイク)で尋ね、ベースラインと5年後の通勤手段の組み合わせから以下の4群に分類

(1) 両時点とも自動車・バイク通勤(マイカー通勤)の群
(2) 徒歩、自転車、または電車・バス通勤から自動車・バイク通勤に替わった群
(3) 自動車・バイク通勤から徒歩、自転車、または電車・バス通勤に替わった群
(4) 両時点とも徒歩、自転車、または電車・バス通勤の群

4.肥満度の変化

5年後のBMI(Body mass index)からベースライン時のBMIを引いた変化量
*BMIは肥満度の指標で、体重[kg]を身長の二乗[m²]で除した値

5.統計解析

重回帰分析を用いて、通勤手段の変化とBMIの変化との関連を分析 ベースラインの性、年齢、BMI、ベースラインとその5年後の喫煙、飲酒、睡眠、運動、仕事中の身体活動、残業時間、交代勤務、職位を多変量モデルで調整し、これらの要因による影響をできるだけ除去

結果

5年間のBMIの変化量をみると、両時点とも徒歩や自転車といったアクティブな手段または公共交通機関を利用した通勤をしている人(0.01 kg/m²)、あるいはこうした通勤方法に変えた人(0.10 kg/m²)ではそれほど増加していなかったに対し、両時点ともマイカーで通勤する人(0.19 kg/m²)、あるいはマイカー通勤に変えた人(0.24 kg/m²)では増加の傾向が認められます(図1)。

図1.5年間の通勤手段の変化とBMIの変化との関連

図1.5年間の通勤手段の変化とBMIの変化との関連

余暇に運動をしているとBMIの増加が抑えられる傾向がみられますが、余暇運動の有無に関わらず、アクティブな手段または公共交通機関による通勤であればBMIの増加は抑えられ、マイカー通勤であればBMIはより増える傾向を認めました(図2)。

図2.余暇運動の変化別に見た通勤手段とBMIの変化との関連

図2.余暇運動の変化別に見た通勤手段とBMIの変化との関連

仕事で体を使うアクティブな作業から座り作業にかわるとBMIは増え、座り作業からアクティブな作業にかわるとBMIの増加が抑制される傾向がみられますが、仕事中の身体活動にかかわらず、アクティブな手段または公共交通機関による通勤であればBMIの増加は抑えられ、マイカー通勤であればBMIはより増えるという傾向が認められます(図3)。

図3.仕事中の身体活動の変化別に見た通勤手段とBMIの変化との関連

図3.仕事中の身体活動の変化別に見た通勤手段とBMIの変化との関連

解説

本研究から、マイカー通勤を、徒歩や自転車といったアクティブな手段または公共交通機関による通勤に切りかえることで体重の増加が抑えられることを支持するデータが得られました。こうした関連が余暇や仕事中の身体活動によらず認められたことより、日常的に体をあまり動かさない人はもちろん、体をよく動かす人でもアクティブな通勤手段によって体重増加が抑制されることが示唆されます。

国土交通省は「エコ通勤(※クルマ以外の環境負担の少ない通勤)」を推進しています。肥満や成人期の体重増加によりがん、心血管疾患、糖尿病などの生活習慣病のリスクが高まることを踏まえると、本結果より、エコ通勤は働く人の疾病予防にも寄与しうることが示唆されます。スポーツ庁が推進する「FUN+WALK PROJECT」では、通勤や職場、余暇をはじめ日常の中に楽しみながら歩くことを取り入れるよう推奨しています。働く人の健康増進や疾病予防のため、社員のそうした取り組みを後押しする役割が企業には期待されます。

掲載誌

Kuwahara K et al. Association of changes in commute mode with body mass index and visceral adiposity: a longitudinal study.
International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity. 16:101, 2019
URL: https://ijbnpa.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12966-019-0870-x

報告書

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