健康診断結果の経年変化に視点をおいた望ましい健診結果の活用と事後措置のあり方に関する研究

分担研究報告②

職域定期健康診断の検査所見と加齢およびBMI値との関連に関する検討 東京大学 環境安全本部 助教 山本 健也

本研究では、述べ件数約680万件のデータベースを用いて、職域定期健康診断における有所見について以下の検討をおこなった。

1.労働安全衛生法における定期健康診断の有所見率

受診者数が最も多かった2013年度の結果を用いて、特定健康診査における受診勧奨値・保健指導勧奨値等を基に、全年代性別(表1)および性別年齢階級別の有所見率を横断的に算出した。これにより、職域現場で集計されている健康診断有所見率を相対的に比較可能な標準資料が作成された。

なお、2013年度当時の労働安全衛生法では、糖質検査において空腹時血糖値とHbA1c値のどちらかを選択可能であったことから、これらの検査は母集団を分けて分析をした。

表1 法定項目別有所見率

2.健康診断結果の経年変動にかかる検討

1)性別年齢階級別 5年間の検査値(定量検査)の変化

5年間の前後で健康診断実施歴(省略および欠損値なし)のある集団を対象に、検査値の性別年齢階級別の差の分布を検討した。BMIの変動は男性では30代前半が、女性では50代前半がピークであった。収縮期血圧値は加齢によるBMI増加値の漸減変動にかかわらず男女ともに増加変動が続き、拡張期血圧は男女ともに40代後半をピークに変動幅が減少傾向に転じた。肝機能検査の変動のピークは男性では20代前半、女性では40代後半であった。脂質検査の増加変動のピークは男性では20代後半、女性では40代後半であった。HbA1cは男性ではすべての年代で増加を示し、女性では40代前半から増加傾向に転じた。以上のことから、循環器疾患のリスク要因である項目について、定期健康診断の実施が必ずしも義務化されていない若年代での増悪変動が大きいことが示された。

2) 性別年齢階級BMI 区分別 5年間の無所見率(定性検査)の変化

法定項目のうち定性検査項目である視力検査・聴力検査・尿定性検査の経年推移にかかる検討を行った。男性の尿検査においてBMI階級の増加により高年齢層での無所見者率の低下が認められた。視力および聴力検査では性別年齢階級およびBMI区分での差は認められなかった。

3)BMI区分の変動

就労者集団の生理的な経年推移を推定するために、BMI区分を用いての変動分析を行った。5年間の健康診断の前後におけるBMI値が共に18.5-24.9の集団(以下、基準内未変化群)は男女共に全体の61.9および61.7%であり、1回目の基準内群において6回目も変動が無かったのはそれぞれ89.2および88.0%であった。

4)経年推移およびBMI区分を考慮した許容値の提案

上記1)の結果により、特に40歳以下での将来的な有所見への進展を防ぐ目的から、基準内未変化群における経年変化値およびその分布を基に、節目となる年齢における許容値を提案する。基準内未変化群における経年変化値およびその分布から、45歳未満での検査値変動の最も大きい年齢において、表1に用いた基準値(受診勧奨値)を基に各節目年齢までの累積経年変化値を逆算する方法にて、30歳、35歳、40歳における検査許容値を算出した(表2)。

表2 各年齢での検査許容値

3.健康診断項目の省略が検査結果に与える影響

健康診断の省略に伴う検査値の変動について、30→35歳群および35→40歳群の検査結果の変動について検討した。30→35歳群では、省略回数が多い群において非省略群と比して多くの検査値での増悪傾向を示した。そのうち肝機能検査および脂質検査結果については35→40歳群でも増悪傾向であり、また35→40歳群では新たにHbA1cの増悪傾向も有意に認められた。このことから、検査値等が一定条件を満たす群に対して健康診断を省略せずに実施することで、若年代の検査値の増悪を予防できる可能性が示唆された。

報告書

こちらをご覧ください

ページトップへ